輝石 vol19 について


  文芸部の小説短編集、輝石ver19を発行しました!

  今回のテーマは「時代劇」と「もし明日地球が終わったら」

 図書館で貸し出しを行っているので興味のある人は是非来てくださいね!

2012年12月
(部長  大槻 智也)





(次の文章は,一部抜粋です)


「雨の刃」
クレアトル
  その日、江戸の街は雨が降っていた。
俺は雨が好きだ。
この雨でもどこかの川が氾濫し、どこの馬の骨とも知らんヤツが死ぬ。そしてその家族や友が悲しみに暮れるに違いない。俺はそんな光景を見るのが好きでならんのだ。

  街の通りには雨にもかかわらず人だかりができていた。ちょいとごめんよ、と人をかき分けてその中を見る。その中には地面に伏して麻絹をかけられた男と、それにすがり泣き叫ぶ女と幼子。
  まさに地獄ではないか。
俺の心がもっとも晴れやかになる瞬間だった。雨が降っていてよかった。傘を差していなければ今の酷く歪んだ表情を人に見られてしまうかもしれない。まさにこの瞬間の為だけに俺はこの仕事をしているのだ。
  しかしいつまでも見ているわけにもいかない。辻斬らしいぞ、おっかねぇなぁ、と周りの声が聞こえる。慌てずに、ゆっくりとその場から立ち去る。

  先の事件のせいで人通りの少ない道を、さらに人通りの少ない道を選んで歩く。町の外れの山の麓の小さな小屋。それが俺の家だ。あたりは人気がなく、来るのは怪しげな仕事を頼みに来る連中だけだ。
  立て付けの悪くなった戸を引っかかりながらもあけ、自分の家にはいる。中は真っ暗で誰もいない。家具類もあまりなく、がらんとして人の生活感の感じられない部屋だ。
飯はもう外で食ってきたし、特にすることもなし。鍔の無い刀を外し、囲炉裏に火もつけずに敷きっ放しの布団に横になる。

  次の日は何もなかった。俺の仕事代なら毎日やる必要もない。なにか物足りなさを感じながら、何もせずに過ごす。昼ごろになり、ふとした気まぐれで野菜類を買いに行った。たまには料理でも、ということである。しかし、しばらく嫁の作った飯も食っておらんし、作り方も知らずに当てずっぽうで作ったが、食えたものではなかった。余った食材類は一応保存しておこう。
  その日の晩に仕事が来た。怪しげな風貌の男だった。筆談しかしなかったところを見ると、よほど慎重な者か、それとも「喋り方」で身元が割れるような人間なのか。
  しかし、それらの一切はおれには関係ない。大事なのは仕事ができるかどうか、だ。

  翌日、また雨だった。仕事をするにも気分にも良い。
傘をさし、街へ調べに行った。雨のせいで人通りも少なく、苦労したが、俺にとっては仕事がすべてなのだ。前回の報酬も惜しげなく使い、調べ上げる。途中で、手が震えているのを感じた。傘が震えて不審がられぬように気を付けた。そして無論、その震えは恐怖などではない、興奮のためだ。相手の家族の顔を考えるだけで楽しくてならないのだ。
  日も落ち、雨のせいもあってあたりがすっかり暗くなった後。そいつは賭場で大きく勝手、上機嫌に歩いていた。俺はその後ろから音も立てずに忍びより、刀を抜いて一気に首を落とす。彼が大きな音を立て、地に落ちる。少し遅れてもう一度小さな音を立てる。そして彼は者から物になった。素早く刀をしまうと、すぐにその場を立ち去る。
  勘違いされやすいが、前にも言ったように俺は人切を好むわけではない。あくまで人切を手段であって俺の目的ではないのだ。切るのは早く、安全に。

  その日家に帰るともう夜更けだというのに、家の前の道に一人の子供が立っていた。
傘もさしておらず、着物もところどころ濡れていた。
どうやら顔を見る分には女児らしい。
もう遅いから家に帰れ、雨宿りか、それとも迷ったのか、と声をかけると
どちらも違う、という。
その後しばらく時間をかけて問答を続けた。
自分からは喋らぬし、こちらが問うても言葉数が少ないので苦労したが、おそらく捨て子らしい。
  母がここまで育てたものの、これ以上食わせてゆける金がない、とここへ捨てて行ったそうだ。傍目にはとても人が住んでおるようには見えぬし、空家にでも押しつけたつもりだったのだろう。少女は街のほうにでも行こうとしたが、この土砂降りのおかげでここで雨宿りしざるを得なくなったそうだ。それにしても捨て子、である。
  綱吉公の時分に捨て子を保護する「生類憐れみの令」が出て以後、気軽に捨てるものが増えたせいで随分と数が増えたとは聞いていたが。
  本来そのような子は町内の世話役の所に連れて行くきまりになっている。しかし俺のような平民がこんな夜更けに訪ねていって反感を買うのもつまらんし、悪目立ちして仕事に影響が出ても困る。俺は仕事のためだけに生きているのだ。
  そのような都合で、俺はその子を一晩預かってから世話役の屋敷に連れてゆくことにした。

家に入れると、どうせ飯もまとも食っていないのだろうから、食っても良い、というつもりで、氷室に野菜がある、と言ったが、
それが作ってもよいのか、と問う。その歳でも女ならつくれるものか、漠然と思いながら自分の分も作ってもらえんか、という。
少女はしばらくすると汁物を2つ持ってきた。そういえば米は買っていなかったな、と思いだす。
口をつけ、飲んでみたが、うまい。前に気まぐれで俺が作ったものなど比べるまでもない。
うまい、と呟くと少女は少し照れくさそうにしていた。
2人とも疲れていたので、その後は何もすることなく寝た。

次の日の朝、俺が目を覚ますと、少女は味噌汁を作っていた。もちろん米は無い。まぁ今日の朝までだしいいだろう。
飯を食った後、俺たちは家を出た。俺の小屋から世話役の屋敷まで少々
距離があり、町内を横断する形になる。
案の定、昨日の場所には人だかりができていた。出来れば見に行きた…
(以下は,輝石をご覧ください)